高校陸上で一番記憶に残ったレースは何?と聞かれたら、カヲル君の800mと答える。
県立ながらグランドはタータン仕様という設備に関しては私立並みの高校の陸上部に所属していた。先輩はインターハイに出たりしてたけど、自分の代は絶望的に弱かった。ほとんどが県大会にすら行けないレベル。俺も腕を折って陸上から離れていた期間が長かったため、中学のタイムの方がいいくらいだった。そんな中でのカヲル君である。
彼はエヴァが大好きだったことから、渚カヲルから取ってカヲル君と勝手に呼んでいた。そのうち、中・長距離メンバーは全員がカヲル君と言うほどになっていた。彼氏彼女の事情も好きで、最近雪乃全然出てこないねとか、リカちゃんライフは無いわとか言い合ってってた。
元々は1500mに出ていたが、終盤失速していたことから種目を変え800mを主戦場としていた。スピードはあって、練習で200×10とか300×10の時は先頭を走っていた。怪我もせずどんどん力を付けて行った。
で、地区大会。タイム的には県に行けるかどうかってとこだった。ちなみに成田高校がいる地区である。そのほか強豪は銚子西、東金商業、佐倉がいた。
タイム順に組は決まってくる。カヲル君は真ん中くらいの組になってた。
レースはというと、1周目の通過が58秒で遅い立ち上がりだった。それもそのはず、カヲル君はバックストレートからポケットされていたのである。
このままだと確実に落ちる。そう思っていたら、2週目第一コーナーでいきなり右にいた選手が3レーンまで吹っ飛んだ。カヲル君が強引に吹っ飛ばしたのである。その隙にポケットから脱出、先頭に出る。カヲル君はなぎさMe公認を読んで中距離を研究していたのである。
そのまま1位でゴール、タイムは2分4秒だった。結果的に地区で終わっちゃったんだけど、ポケットからの脱出劇がすごくてずっとその話ばかりしていた。筋トレとかめっちゃしてたし、3障台を持ち上げるパワーもあった。人間1人くらい吹っ飛ばすわけだ。熱いレースだった。
ちなみに俺の学年だけあだ名が定着していて、種目別にこうなっていた。
5000m、パン工房、リョータ
3000m障害、チャモ、しのぶ
1500m、ゾマ
800m、カヲル、コバケン、サイト―君
大会ではこれらの名前を呼んで応援するのでもはやカオスである。特にゾマ。
いやいや、ゾマってなんだよ。そもそもどっからそんな名前持ってきた。
「ゾマ頑張れ」とか応援が微妙過ぎる。本人もよく了承してたな心広すぎか。